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編入試験は簡単だった。
目をつむっていても九割は軽く取ることはできただろう。
学校は僕の編入を認め、この九月から通うことになった。
お盆を過ぎても残暑の厳しさは変わらず、蝉の声も鳴き止む気配はない。
「今までの学校じゃあ、どこの教室もクーラーガンガンだったけど、この学校は何もないからねー。
まあ、この田舎の学校の生徒たちに都会の話をたっぷりしてやりな。」
中途半端にクーラーの効いた職員室で新しいクラスの担任と話をしていた。
赤坂先生というそうだ。
三十代半ばの年齢で、どこか飄々とした男の先生だ。
僕のことを気遣い、両親のことに触れないのはありがたい。
赤坂先生に連れられて新しいクラスの教室に来た。
思っていたよりも狭い教室、数の少ない古びた机と椅子、二階なのに窓からは空と海の水平線が見える景色。
今までとは全く環境が違うことを改めて感じさせた。
「この辺は高い建物がないからな、反対側の校舎からは山が見えるぞ。
まあ、急に環境が変わって落ち着かないだろうが、そのうち慣れてくるだろう。」
すぐに慣れるかどうか自信はないが、意味をなくした僕の人生の延長線、これ以上得るものも失うものもない。
そんな時、ふと何かが目に入った。
教室の本棚の上にある植木鉢の小さな向日葵だった。
ただの向日葵にすぎないのに、なぜか目をそらせてはいけない気がした。
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