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総はあの日から、
珠と甘味処に出かけた後ぐらいから、
何か不穏な空気を感じていた。
町を歩くと、視線を感じる。
総は整った顔立ちで、よく女に遠目から見られている。
が、しかしソレとは違う。
敵意、とは違う視線。
面白がっているような、観察されているような視線だ。
その視線を感じるたび、追いかけようかと思うが、面倒事は嫌なため、無視する。
そんな日々がもう2週間ほど続いている。
総のイライラも募るばかりだった。
距離を保ってついてくるそいつを総はいつも撒いて家に帰る。
そいつもそこまで追う気はないらしく、着いてこない。
総はだいたい夕方から、夜にかけて仕事をする。
仕事の前に総は必ず馴染みの鍛冶屋によって変装してから
仕事に行く。
鍛冶屋の主人は昔から懇意にしているので事情もしている。
総は10年前から、不逞浪士達を捕まえ、もしくは殺して、
奉行所に突き出し、報奨金をもらい、生活金にしている。
町で懇意になった店の人に
横暴な侍を追い払ったりしてお金をもらうこともある。
奉行所に突き出す場合、
奉行所の人に顔を覚えられたりするのが厄介なため変装をしていくのだ。
このことを知っているのは鍛冶屋の店主のみである。
珠には自分が人殺しをしてお金を稼いでいるなんて
言えなかった。
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