162人が本棚に入れています
本棚に追加
珠は総にとって守るべき存在である。
10年前、家がなくなる前からそうなのだ。
自分は本当の兄弟ではない。
珠の親たちは、跡取りのためにひろったのだろうが、
総が成長するにつれて純血の鬼じゃないとわかって、跡取りとしては扱わなくなった。
珠が生まれた後は、珠を守れと言い聞かせられ、武芸をこなしてきた。
言われずとも、珠を守るつもりでいた。
あの笑顔を消すやつは、たとえ誰であろうと、殺す。
そんな決意を総は小さいころからしている。
つまるところ。
総はドがつくほどシスコンなのである。
鬼狩りの後、珠はあまり外に出れないせいで、今まで男との関わりはまったくと言っていいほどなかったが、
恋仲の男なんかできたら
即刻斬りに行こうとするくらいであろう。
むしろ男を近づけないだろう。
仕事とズレたことを考えているともう日が暮れそうであった。
闇の中斬るほうが穏便にことが運ぶので夜まで待ってから仕事をする。
今日もそのつもりだった。
不逞浪士を待ち伏せし斬る。
狙うやつはあらかじめ調べて、報奨金の高そうなやつを選ぶ。
斬ったあとは奉行所に行き、お金をもらったら、再び鍛冶屋に戻り、着替え、家に帰る。
奉行所に行こうと総が踵を返そうとしたところで
人の気配がした。
不逞浪士の血の匂いがしたのか、こちらに向かってくる足音。
複数の足音に総は思わず舌打ちをしたくなった。
さすがに死体を運んで隠れるのは無理だった。
運よく通り過ぎてくれないか、と総は願うが、
それは叶わなかった。
最初のコメントを投稿しよう!