壬生浪士組へ

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中に入って見回すも、人影はみあたらない。 探すのも面倒であった総は肺いっぱいに息を吸い込み、 「ぅ沖田あああぁぁぁぁ!!!」 沖田の名前を叫んだのである。呼んではいない、叫んだのだ。 この声に驚いたのか何なのか人が集まり始める。 だんだんと密集していき、さすがに総はやりすぎたか?と後悔し始めたとき。 「何をやっている。道場に戻れ」 落ち着いた声音が、壬生浪士組の野次馬達を静めたのである。 「斉藤先生!」 誰かの声に、目の前の男がそれなりの地位にいることをあらわしていた。 手っ取り早く、コイツに沖田の居所を聞こう、と総は決めた。 そんな思考を総が巡らせているとき、また、斉藤も目の前の男、総に対し既視感を抱いていた。 甘味処事件のときに斉藤も総と珠を見ていたからである。 斉藤もしばらく思案すると、 総が甘味処の男であると気づいたようで、少し目つきを鋭くさせた。 「俺、沖田に呼ばれてるんだけど。」 総がそう言うと、斉藤はため息をついた。 沖田ならやりそうなことではあるが、屯所でやるなよ…。 と内心で思いつつも、自分も手合わせしたいという気持ちに駆られていた。 「総司か、今は巡察だろう ……それはいいが…その荷は何だ」 大量の風呂敷や籠に斉藤は不審な目を向ける 「わかんね、団子とか饅頭とか、いろいろ」 町の人にもらったんだよねー。という総に斉藤は 自分たち壬生浪士組とは正反対だ、と思った。 壬生浪士組は京で壬生狼として嫌われ者なのだ。 「今はいないんですね? じゃあ帰ります。」 沖田がいない。つまり手合わせしなくていいということだ。 幸運だ、と思って早速踵を返そうとしたときだった。 やはり総の今日の運勢は決して良くなかった 「来てくれたんですね!」 総には悪魔の一声とも言える声が聞こえたのである。
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