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「来てやったが、呼んだお前が留守ってどういうことだよ。
呼んだならちゃんと待ってろよ」
全く!礼儀がなってねえ!
と吐き捨てる総に沖田は気にした風もない。
「あ、そういえば、名前まだ伺っていませんでしたね。」
気にするどころか、軽く流した。
飄々とした沖田に殺意が芽生えるものの、相手にするのが疲れるため、なんとか刀に手をかけたくなる衝動をおさえる。
「周防(スオウ) 総だ。」
周防という苗字は偽名だ。
身元を隠すためである。
どこから珠の情報が漏れるかわからないからだ。
「周防さんですね。
では、早速道場に行きましょうよ!」
早く打ち合いたい気持ちを全面に表す沖田に苦笑する。
犬みたいだと思いながら、弟みたいだと思った。
「1回だけだからな」
そう言うと抱えていた荷物を置こうとしたとき、
沖田は甘い匂いを嗅ぎ取った
「も、もしかして…それ…
甘味では……」
食いつくように荷物を凝視する沖田に驚きながらも肯定すると、すばやく荷物を物色する。
「こ、これは…」
1つの饅頭を手にとって沖田は声を上げた。
そんな沖田に訝しげな目をむける総と今まで傍観していた斉藤。
「この、お饅頭…
かな屋のお饅頭ですか?」
「あ?わからんが、かな屋の女の子に何かもらった気がする」
それを聞いた沖田は総を勢いよく見て、まくし立てた。
「かな屋ってどんなけ人気の甘味処か知ってるんですか!
値段は少し高めなんですけど、最高の甘味を売ってるんです。
そのせいか、早くから並ばないと買えないんです!
私ですら、1度しか食べた事ない!」
ものすごい勢いの沖田に困惑した総は助けを求めるように斉藤を見るが、斉藤はフイと顔をそむけた。
斉藤に見捨てられた総は興奮気味の沖田をもてあまし、何とか落ち着かせるために口を開いた。
「そ、そうなのか。
そんなに言うなら、沖田にやるよ」
その瞬間沖田は総にキラキラしたまなざしを向け、ありがとうございます!と笑顔を浮かべた。
総は内心、沖田が落ち着いてくれて助かったとホッとしていた。
「手合わせ、しないのか?」
傍観に徹していた斉藤の一言に沖田は思い出したかのような素振りを見せつつ、道場に行きましょう!とニコニコと総の手を引いて歩いた。
斉藤はというと巻き込まれないように少し後ろをついてきていた。
手合わせ前から総は早くも沖田という珍獣に疲れていたのであった。
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