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「珠っっ!!!珠っっ!!逃げるぞ」
燃え盛る我が家に呆然とする珠を総は無理やりに引っ張る。
道場の帰りだった。
世の中では珍しいが兄と共に、道場へ武術を習いに行っていたのだ。
珠には太刀は重く、小太刀を習っていた。
いつもの時間に家へと戻ると
すでに火の手は上がっていたのである。
せきをきったかのように叫び、泣きじゃくる珠。
そんな珠を見ると自分がしっかりしなくては、と総は自分を励まし、とりあえずこの場から離れようと珠を引っ張って、
町はずれのあばら屋に移動したのだった。
あばら屋に着くまで総は珠をおぶって来たが、珠の嗚咽が止まることはなかった。
「珠。俺が半鬼(ハンキ)なのは知ってるな?」
あばら屋に入ってしばらくすると総はおもむろに口を開いた。
コクリと頷く珠を見、話を続ける。
「珠は純血の鬼なんだ。わかってるな?
つい一昨日。この国ではあることが決められたんだ。」
鬼のことはわかっても世間に疎い珠は何のことを言ってるのか分からず、目で先を促した。
・・・
「鬼狩りだ。
国のおえらいさん方が、鬼が思い通りにならず、脅威になると思ったんだろうな
本格的に開始されて、普通の町人や武士達に、鬼を狩れば禄(お金)をやるとお触れを出したんだ。」
「ごめんなさい」
深く暗い沈黙の後、珠が発したのは、謝罪の言葉だった。
「総兄は、半鬼だから、普通に生活してたってわからないのに……
私のせいで巻き込んでごめんなさい。」
半鬼とは、人間と鬼の子。
いわゆるハーフだ。
そして鬼の外見的特徴は歯と耳。
犬歯は鋭くとがり、
耳も人間とは違ってとがっている。
だが、総は半鬼のためどちらの外見的特徴も持っておらず、普通の人間と同じように見えた。
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