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キスをした唇は拭わないまま若林は部屋を後にした。
居たたまれなさよりも単に御手洗いに立っただけである。そういう関係でも無いし、そういう行為でも無かった。
だからこそ触れた唇を不快だと思わない。その倫理は不必要だった。
収録待ちの待合室に空けられた狭い一室で、よくもまあ男同士でナニやってんだと思わないでも無いが、それがきまりごとであった。
話は過去に遡る。
あれは売れ出す少し前の、ショーパブに通った時代。
「なあ春日、ゲームしねぇか?」
「なによ、いきなり」
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