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翌日。
新たに入った依頼の確認をする為に向かった家で再び出逢った。
その人も私を覚えていた様だった。
そこで初めて言葉を交わした。
咲妃都は二条家の一人娘で、外に出る事は滅多に無いのだ、と咲妃都付きの女官の綾野さんが話してくれた。
咲妃都とは御簾越しでしか話す事を許されなかった。
お互いの名を知ったのは、この時だった。
「当主の名代として参りました。
皇 司と申します」
御簾越しに、そこにいるであろう人物に向かって深々と頭を下げた。
「私は咲妃都という。
…昨日も会いましたね」
にこやかに笑んでいるのが伝わってくるほどに柔らかな声が聞こえた。
隣で控えていた綾野さんが驚いているところを見ると、咲妃都のこの対応はかなり珍しいようだ。
昨日と言われて脳裏に浮かんだのは、思わず見入ってしまった横顔の人物だった。
あの時、咲妃都とは一瞬目があっただけだった。
「月を…見ておられたのですか?」
確信が無かったので聞き返した私に咲妃都は嬉しそうにそうだと答えた。
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