Ⅰ 星の海 天使の声

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――ガラスの少年と、少女のお話。  ぼくらが、昔、ガラスでできた、ただのガラクタだったとは、ぼくもそして妹も、知る由(よし)もなかった。 第一章 二重惑星 誰もが忘れた、田舎惑星。そのすぐそばには、巨大な母星を持つ二重惑星で、いつもその背景に、美しく青い母星(ホシ)を背負っている。夜には、母星の夜景が、まるで空にきらめく星々のように点滅してまぶしい。  そんな、小さな惑星に、ぼくらは住んでいた。  いつから、そしてどこから来たのかも、ぼくらには全くわからない。何故なら、記憶がないからだ。生まれた時の記憶、母の記憶、そしてどんなに年月が経っても歳をとらない理由……。  ぼくらは、近くに住む、他の惑星の人々と交流をして暮らしていた。不思議なことに、ぼくらは指先に、奇妙な魔法を持っていたからだ。  午前十三時、真夜中。ぼくらの住むスピノタ(ぼくらの言葉で青いガラスを意味します)惑星には、毎晩、幾万もの星が降り注ぎます。母星のユリノタ(大きなガラス玉の意味)惑星から宇宙間へ投棄された未処理廃棄物が、スピノタ惑星の周りを輪になって何万年も回っている。それらが、宇宙空間で物質変化を遂げると、やがてスピノタの引力に引き込まれ、発光体となって空から落ちてくる。  幾千、幾万の、星のきらめき……。  ぼくらは真夜中、その発光体(流れ星)を拾い集めに来る。それが仕事の始まりだ。 「ユリノール、今日も頼むよ。」  流れ星は、新鮮なうちでなければ、意味がない。ぼくらは、ぼくらの大好きな愛らしい生き物、ユリノールに乗せて、拾い集めた星を、「虹の工房」へと運んでゆく。  ご紹介が遅くなったようだが、“ユリノール”とは、“虹色の象”のことである。この世にたぶん、一匹しかいない。とても優しくて、美しい生き物だ。そして、妹は“ライラ”(花の娘)、ぼくは“ルリノ”(光の少年)と呼ばれている。  ぼくらの家、“虹の工房”は、とても素敵な所だ。まず扉を開けると、部屋中にライラックの香りが漂っている。それから、床もソファもベットもみんな、けして枯れない花々で飾られている。問題の工房には、透明の大きなフラスコ瓶があって、そこで、例の流れ星を青い炎で熱するのだ。  流れ星は、たとえその昔、人が捨てた物だとしても、嫌な匂いは少しもしない。今では宇宙の匂いが染みついているので、奥深い薔薇の香りがかすかに漂う。
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