・*泡沫と消えるは*・

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  それこそ手加減なしでただ力いっぱい抱きつくというかしがみつくといった勢いで、ぎゅーっと手に力を込める。 それに応えてくれるかのように冬夜の手も私を優しく包み込んでくれて、絶対に泣くまいと思っていたのに、じんわりを浮かんでくるものを堪えきれなくて…… 「桜菜」 そう優しく呼ぶ冬夜の声につられて少し顔を上げれば、目尻に溜まった水滴を吸うように冬夜の唇が近づいてきてちゅっと小さなリップ音をたててその温もりが離れていく。 思わずそれをジッと凝視してしまった私にからかいを含んだ冬夜の声がなげかけられた。 「そんな、名残惜しそうに見つめるなよ」 「そ、そんな事ないもんっ///」 「ふーん。じゃあしたくないのか?」 「え……?」 「口づけ」 「っ……!?///」 普通にキスって言えばいいじゃないっ!! それでなくとも今の冬夜は金髪の時と違って妙な色気と言うか艶やかさがあるのに、そこにきて絶妙なかすれ具合でそんな風に言われたら……! ゾクリと身体を走る久しぶりの感覚に思わず漏れそうになった声を寸でのところで押し止めたものの、それすらお見通しと言わんばかりに耳元での甘い攻撃ならぬ口撃が続く。 「相変わらず敏感なんだな。俺の声には」 「っ……しょ、しょうがないでしょ」 「あぁ。すげぇ可愛い」 「っ……!?///」 もう本当に声だけで腰砕けになってしまいそうで、少しでも冬夜の声の威力から離れようと顔を動かした次の瞬間――私の目の前に整った冬夜の顔があった。 一拍の時をおいて唇が重なっているという事実を認識して、その温もりに身を委ねるように身体の力を抜いた。  
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