原石

2/3

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
「パコーン」 とボールを打つ快音が今日もテニスコートに響きわたる。打っているのは神崎龍一、この球王学園の高校一年生であり、硬式テニス部の期待の新人、成績も優秀だ。龍一は数々の大会で優勝していてこの学校では有名だった。しかし龍一には一つだけ他の人とは劣っているところがある。それは、人一倍恋に無頓着なところだ。なぜなら彼は、女性を異性としてみたことがないからだ。なので彼は、同じクラスの女子を下の名前で呼んでいる。  「お疲れさまでした」 と言う挨拶を終え、龍一はテニスウェアーのまま校門を出た。  「今日も疲れたなぁ、お疲れさまでした、俺。家に帰ったら化学の勉強でもしようかなぁ」 と龍一は言っていた。龍一はテニスと同じくらい勉強が好きな、すごく模範な、文武両道人間だった。 そのとき、不意に腹がなった。 「腹が減ったなぁー、早く帰るか」 と言って走り始めた途端、右方向から走ってきた女性と龍一はぶつかった。 「だ、大丈夫ですか」 と龍一は言った。龍一はかすり傷一つなかったが、相手は尻餅をついてしまったらしい。 「大丈夫ですよ。すみませんこちらこそ」 と女性も言った。彼女はぶつかった時、財布を落としてしまい、龍一はそれを渡した。 「ありがとうございます」と彼女が龍一を見た瞬間に、 「えっ、神崎龍一君」 と聞いてきた。彼女は、 「そうだよね。じゃあ、私の名前はわかる」 と聞かれて龍一は、 「ごめんなさい、わかりません」 と言った。もちろん、龍一にわかる訳がない。 「そうだよね、神崎君は、あまりクラスの女の子と話さないもんね。私の名前は天川・・・」 と言った途端、 「天川唯さんですか」 と逆に聞き返した。 「そうだよ。神崎君、忘れないでよ」 と、唯は言った。龍一は制服姿でしか見たことが無かったので最初服が違ったので気が付かなかったのだ。 「神崎君の家ってこっちなんだ、じゃあご近所かもね」 彼女は不意に言ってきた。「そっかー、知らなかった。これからもよろしくね、唯」 と満面の笑みで言った。 「ところでさ、神崎君。その・・・、一緒に帰らない。神崎君ともっと、お話ししたいなぁと、思ってね」と唯が顔を林檎にして言った。 「いいよ。僕も唯と喋りたいなぁと思ってたから」 と青林檎の顔で答える龍一。とたんに唯の顔が林檎以上に紅くなった。 「じゃあ、行こうか」 と龍一が言った。 「う、うん」 と唯が言い、二人は歩き始めた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加