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☆
何も知らない凛斗は教室に入るとまず自分の机を探した。名前の順だったのだが、昨日の自己紹介を聞いていなかったので見当すらつかない。
「り~んちゃん! どしたの?」
知り合いの登場に思わず駆け寄った繚司にクラス中から視線が注がれた。
凛斗に何故か朝からテンションの高い繚司が絡む。
「ん~、いや席が分からん……」
凛斗は探すのをやめ、教室を眺めている。
「たしかりんちゃんの座席は廊下側から2番目の前から4番目だったかな? ちょっと待ってて」
そう言うと繚司は教卓へ行き、頷きながら戻ってきた。
「俺の記憶は正しかった。そしてお前が羨ましいぞ」
繚司が何か言っているのだが凛斗は聞いていない。凛斗が席に着こうとすると後ろの席の人と目が合った。
「おはよう、彪臥君」
後ろの席は例の水瀬 雫だった。先程繚司が羨ましいと言ったのはこのことだろう。
「おはよう、水無瀬さん。俺のことは凛斗って呼んでいいから、苗字で呼ばれると変な感じだし……」
凛斗は椅子に横向きで座り、後ろを向いた。
「じゃあ凛斗、私のことも雫と呼んでください」
雫がニッコリと微笑むとその美貌が際立った。改めて近くで見ると目鼻立ちは整っていて、肌も白い。
「あぁ、分かったしず…「ちょっとりんちゃん、俺も話に入れて!」
突然繚司が駆けよって来た。普通の人なら迷惑に思うだろうが、凛斗は繚司が話に割り込んできて助かったと思った。
どう話を終わらしていいか分からなかったからである。
「りん…ちゃん?」
雫は一体それが誰を指すのか分かっていない様子だった。
「いや、なんでもない。雫は知らなくてもいい言葉だ」
「しずく~!? 凛斗、お前今名前で呼ばなかったか?」
繚司は驚きのあまり呼び方が素に戻っている。
「えぇ、私がそうするように頼んだんです、館鞍くん」
雫はわざとらしく最後を強調して笑っている。それにつられて繚司も笑っているから驚きだ。
「そうそう、そういえばさ今朝のニュース見た?『アーク』っていうロボットの話!!!チラッとカメラに映ってたけどマジでかっこよかった、なぁ?そう思うだろ」
繚司は話題を急に180度転換した。
「なんですか、それは?」
雫は知らない様子だったが、凛斗は気付いた。
雫の瞳の奥に暗いものがあるのを、ついさっきまでなかったものがそこにあった。
すぐにチャイムがなり、繚司は席に着いた。
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