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「ちゃんと覚えていたようだな。時間通りだ」
雫は凛斗に目をやり、読んでいた本を伏せた。車の中には話をするのに邪魔にならない程度の大きさで音楽が流れている。
「あぁ、日付と時間だけは……って、あれ?」
昨日凛斗が思い出せたのは雫の最後の言葉だけだったが、今は3日前のやりとりが鮮明に思い出せた。
疑惑の表情が凛斗の顔に浮かぶと、雫はそれを察したように説明する。
「あの日の車の中で流れていた音楽には特殊な波長の音が含まれていて、脳波を狂わせて記憶を制限する。それをこの音楽に含まれる波長で打ち消した。
機密情報流出の危機を防ぐための処置だ」
雫は饒舌に語ったが凛斗はあまり理解できなかった。
「…………、疑問に思ったんだけど、雫ってそんな話し方だったか?」
あの日のことを思い出した凛斗はどうでもいいことをつい聞いてしまった。
「これが普段の話し方だ。学校では馬鹿丁寧に話しているだけだ」
みんな騙されてるんだなぁ。と凛斗は思っていたが、雫は何をいまさらといった表情をしている。
「そ、そうか。じゃあ……、今からどこに行くんだ?」
「『アーク』の公開起動を見に行く」
雫は凛斗の顔すら見ずに言い放った。少々機嫌を損ねているらしい。
「『アーク』ってあの……」
凛斗がそう言いかけた時、雫に遮られた。
「見えたぞ、あれで関蓬島<せきほうじま>に向かう。」
雫の視線の先には戦闘面に特化したヘリコプターが見えた。全体が黒塗りでボディの左右には小型のジェットエンジンを搭載している。
こうして凛斗はわけの分からないまま空の人となった。
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