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☆
「あ、彪臥 凛斗<ヒュウガ リンド>です。よろしく」
凛斗は無難に挨拶を済ませて座ろうとしたが、先生に寸前で止められた。先生の顔にはうっすらと笑みが浮かんでいる。
(な、まだなんかあるのかよ……)
「好きな食べ物は?」
「特にないです」
「嫌いな食べ物は?」
「特にないです」
「じゃあ先生のことどう思う?」
「特にないです」
最後の質問を尋ねたときに若干先生は目を輝かせたが、あっさりと裏切られた。
このとき凛斗は意識せずに答えていたため、先生のムスッとした表情を見て即座に後悔した。
次に繚司が自己紹介している間に、凛斗はカワイイ人にあんな顔させちゃった、でも怒った顔もカワイイかったからいいや。と開き直った。
その後は順調に進み、最後の1人になった。
「『水無瀬 雫<ミナセ シズク>』です。好きな食べ物はパンで、嫌いな食べ物は苦いものです。趣味は読書です。部活動に入る予定はありません。よろしくお願いします」
高校の新入生にしては引き締まった体で胸もやや大きい彼女はスカートの裾を膝辺りにしている。真面目そうな印象を与える服装に、和美人を思わせる綺麗な黒髪を肩甲骨あたりまで伸ばし、整った顔は絶世の美少女と言って差し支えない。
彼女は入学式で新入生代表の挨拶をしていた女子生徒だった。
凛斗がじっと見つめていると彼女は視線に気付いて凛斗に向かって微笑んだ。凛斗は思わず視線をそらしてしまう。
決してそれは目が合って恥ずかしかったからとか気まずくてとかいう理由ではなく、雫のまっすぐな視線に心の奥底まで見透かされたような気がしたからである。
一通り自己紹介が終わって再び先生が話を始めたので、凛斗は雫を観察していたが、当の雫は始終穏やかな表情のままだった。
これ以降は何事もなくこの日は順調に終わりを告げた。
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