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「おぃ、樹央!」
時計は既に四時を示し、教室の中に在る生徒の影も疎らにしか残っていない。
その生徒に紛れ帰路に就こうと席を立ち上がった樹央を賢斗が呼び止める。
「…ん?」
「掃除当番。オレらだぞ!」
「あぁ、そうだったな…」
渡された箒で床を掃きながらもやはり、気になってしまうのは今朝の事件。
いっそ、この不確かな気持ちを誰かに相談出来れば少しは気が晴れるだろうか?
そう考えていた時だった…
「今日、何か有ったのか?」
……賢斗が問掛けて来たのは。
「え……なん…で………?」
まるで、総てを見透かしているかの様な真摯な眸を向けての問いに、樹央が言葉を失っていると、賢斗は呆れたふうなため息を吐く。
「…あのなぁ、……擬なりにも四年間──今年も入れたら五年間、お前と関わって来たんだ。それも不思議な事に全部同じクラスになってな。お前の様子がおかしい事ぐらい気付くっての」
『だから話せ』と語りかける眸は出逢った時と変わらずひたむきに真摯なモノで思わず口元に微笑みが浮かぶ。
「あぁ、そうだな」
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