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自身の住居が有るマンションの玄関口に備えられている認証装置に、8桁の暗証番号を入力してカードキーを差し込む。
すると、ウィーンという軽いモーター音を伴ってガラス張りの自動ドアが開く。
それを見ていた賢斗は思わず感嘆の声を漏らす。
「へぇ~、最新セキュリティー完備のマンションに一人暮らしかぁ~」
「何言ってんだよ。来た事あるだろ?」
認証を終えたカードーキーを取りながら呆れたように樹央が言えば、「あれ…そうだっけ?」と賢斗がおどけてみせる。
「はぁ~、良いからさっさと行くぞ」
そう一言呟き、樹央がマンションの中心に陣取ったエレベーターに向うのを見た賢斗は慌ててその後を追いかける。
賢斗がエレベーターに乗り込んだのを確認すると樹央は三階のボタンを押す。
軽い浮遊感を覚えた後、チンッという音がして扉が開く。
エレベーターを降りた樹央がそのまま自室が在る右端のドアに鍵を差し込む。
ガチャリと鍵が廻り、樹央はドアノブに手を掛け力を込める。
「……ッ!!?」
しかし、ドアはガチャガチャと無機質な音を出すだけで、一向に開く気配が無い。
「おかしいな」と呟きながらもう一度鍵を差し込み廻して、ノブに手を掛けると今度は簡単にドアが開く。
つまり、初めから鍵はかかってなかった事になる。
「不用心だなぁ」
「いゃ、ちゃんと鍵はかけてたはずだ」
からかうように賢斗が言うが、樹央はそれを否定して玄関の中に入る。
玄関は四畳程の広さが有り、その端に紅いハイヒールと子供用のピンク色の靴が綺麗に並べられていた。
そのハイヒールに見覚えの有る樹央は顔を青くして呟く。
「っ!…何でこんな時に」
「どうした、樹央?」
「くそッ!」
心配そうに賢斗が尋ねるも樹央はそれを無視して、靴を脱ぎ、鞄を投げ捨てると奥へと走って行った。
おそらく、紅いハイヒールの持ち主が最も居る確率の高い部屋を目指して。
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