~弐~

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廊下を真っ直ぐ進んだ突き当たりに在る、黒く重厚な扉の部屋。 その扉の前にたどり着いた樹央はノックもせずにズカズカと部屋の中に入る。 そこは、黒と紅の二色に染まっていた。 壁は常闇の淵の様に真っ黒くて、そこに備え付けられている家具も、その殆どが壁と同じく黒一色。 いつもと変らないアイツの部屋だ。 ただ、その中心に樹央と同じ身長くらいの、真紅のロングコートを纏った黒髪の女性が立っている以外は。 腰まで届きそうな、部屋と同色の黒髪を持つ女性が樹央に気付いたのか首だけを振り返る。 「……ん? なんだ樹央、帰ってたのか」 振り返った女性の顔は見慣れていて、それでも懐かしい顔。 透き通る様な白い肌も、くっきりとした鼻筋も、切れ長の綺麗な眸も、僅かに緩んだ紅い口元も……そのどれもが酷く妖艶で何より美しかった。 それを見た樹央はかぶりを振り、震える声で女性に問掛ける。 「………なんで、 なんで、あんたがここに居るんだ?」 その言葉に女性は鼻で嘲笑い、身体ごと樹央に向く。 振り返った女性の身体はコートの上からでも解る程に脹よかな胸を持ち、それと対照的にウエストは引き締まっていた。 「どうした、樹央? 母である私が、自分の部屋に居る事がそんなに不思議か?」 口元を更に緩め、女性──早苗は冷たく樹央を見据える。 そんな姿さえ美しく想えて、樹央は一瞬母である早苗に見取るが、直ぐに否定した。 「違うッ!俺はそんな事を言ってるんじゃない! …あんたは、殆どここに帰ってこないくせに、……なのに、何故今日に限って帰って来てんだよ? なんで、なんでだよ……」 始めは大きかった樹央の声は言葉を紡ぐ度小さくなり、尻すぼみに消えて行く。 「用事が有るから帰って来たんだが…… 私が居たら都合が悪いのか? そうか、だったら安心しろ。 私は気にしない」 「っな!──」 一度首を傾げてキョトンとした早苗が一人で納得して言った言葉に反論しようとした時だった。 「わぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」 リビングから悲鳴が聞こえて来たのは…… .
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