20人が本棚に入れています
本棚に追加
「ハラ減ったな」
「は?」
謎の少女──サキについての説明を期待した樹央は、早苗の何の脈絡も無い言葉に目を丸くする。
「ハラが減った!」
だからどうしろと言うのだろうか?
樹央が頭を抱えたい衝動に狩られていると、早苗は強い口調で言う。
「だから飯を作れ!」
まるで心を読まれたかの様な命令に樹央はドキリとする。
しかし、直ぐにその命令が早苗の我が儘だと想い、反論の言葉を紡ぐ。
「なんで、俺があんたの為に飯を作んないといけないんだよ!
あんた、母親ならその辺の物使って自分で適当に作れば良いだろ?」
「その辺の物使うも何も、この家、材料が無かったぞ?」
「あ、………」
早苗に言われて気付く。
「今朝、全部使い切ったんだった……」
「それで、弁当がおにぎりと漬物だけだったのか」
樹央の呟きを聞いた賢斗が納得した様に唸る。
早苗は盛大なため息を吐いて、財布を取り出す。
「これで、材料買ってこい。
サキ、何か食べたい物有るか?」
「あ、おぃ……」
「勝手に決めるな」と言おうとした樹央の言葉をサキが遮る。
「おむぅらいすぅ!」
「だ、そうだ。
ついでに、お前はこれ買って来い」
そう言って早苗は樹央に財布を、初対面である筈の賢斗に何かのメモを渡す。
そのまま、抗議の声を上げる二人を強引に玄関まで送り出す。
「じゃ、頼んだな」
と、ゆう理由で。
━━再びマンションの前━━
「で、結局その中身は?」
「ん」
「げ、酒ばっかじゃん!」
賢斗が差し出した袋の中を覗き、樹央が呆れた声を出す。
「未成年に酒なんか買わさせるなよなぁ~」
「本当、何者なのあの人?」
樹央に釣られた賢斗も盛大なため息と共に尋ねる。
しかし、その問いに答えが返って来ることは無かった。
.
最初のコメントを投稿しよう!