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「……ぉ……母さ、ん…………~~っ!」
自身の発した声に驚いて、樹央は跳ね起きた。
ハァハァと荒く、肩での息を繰り返す。
(まだ、未練が有るってのか!)
諦めていた想い。
いや、
自分では、昔に諦めたつもりでいた家族の温もり。
だが、それはつもりでしかなく、心のどこかではあの頃の温もりを捜している。
故に、早苗が帰宅していた事を知った時は素直に嬉しかった。
居ても立ってもいれずに駆け出して、彼女の元へと急ぐほどに。
それと同時に恐かった。
もう一度拒絶されたらと想うと、強がって虚勢を張る事しか出来ないほどに。
「くそっ!情け無い……」
泥沼に填まりかけた樹央は、思考から逃げる様にズルズルとベッドから抜け出す。
窓際に立ち、淡色な青いカーテンを開けると、外は暗く、ジメジメとした雨が降っていた。
「……雨、か」
訳も無く呟いた樹央は、ベッドの枕元に置いてある目覚し時計を手に取り時間を確認する。
現在時刻は四時。
一介の学生が起床するには早過ぎる時間だ。
毎朝、体力創りの為、早起きしている樹央にさえ、この時間は早い。
「後一時間寝れるか」
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