20人が本棚に入れています
本棚に追加
自嘲的に小さく笑い、サキの髪をソッと撫で付けていると、部屋のドアが開いた。
「本当にそう想うか?」
そう言いながら入って来たのは黒のパンツとTシャツ姿の早苗。
「……何の事だ?」
樹央は、突然の問いに意味が分からず、問い返す。
すると、早苗は呆れたようにため息を吐き、眠ったままのサキに視線を送る。
「その娘を、サキを羨ましいと言っていた事だ」
「ッな……!?」
先程の愚痴とも取れる独り言を聞かれていた。
そう考えると、羞恥と後悔が一度に体中を駆け巡るのを感じ、それを悟られまいと早苗を睨む。
しかし、そんな事など気にも止めず、早苗は静かに言葉を紡ぐ。
「何故、その娘を羨ましいと思える?
お前は、サキの事を何も知らないのだぞ」
早苗の口から出た言葉に樹央は、カッと頭に血が昇り、そこから来る怒りに任せる様に早苗に怒鳴り付ける。
「ッ!!……俺がこの娘の事を知らないのは、あんたが説明も無しに勝手に、連れ込んで来たからだ!
何時だってそうだろ!! あんたは、何も言わない! それで相手が解ってくれると思っている!! 自分勝手なんだよ、あんたらは!」
その怒鳴り声に眉を顰め、早苗は宥める様に樹央に言う。
「解ったから、そう怒鳴るな。
サキが起きてしまっただろ」
「あッ……あぁ」
その言葉に樹央は、自身の傍らに首を向ける。
そこでは、確かに早苗の言う通り、サキが眠そうに瞼を擦りながら、二人を不思議そうに見上げていた。
「……はぅ~~、サナエ?」
「ふふ、悪いなサキ。
起こしてしまったな」
サキがベッドの上で首を傾げると、早苗は優しく微笑いかけて、サキをソッと抱き上げる。
「まだ、起きるには早い時間だ。
寝てて良いんだぞ?」
早苗がサキに微笑いかけたまま、そう言うとサキは腕の中で、ウトウトしながらも小さく頷いて直ぐに寝息を立て始めた。
.
最初のコメントを投稿しよう!