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ジメジメと降り続く雨に濡れ、幾分か重くなった髪が額に張付く。
自宅から、そう遠くない交差点の信号で足止めされた樹央は、鬱陶しく張付く髪を掻き揚げる。
*『信じるかどうかは、お前の自由だ』
早苗はそう前置きをして、サキの過去を語った。
*『あの娘はお前と同じESPの一人だ……故に実の親に虐待を受けていた』
その内容が余りにも印象深く、毎朝の日課であるランニングをしていても、それが頭を支配し、幾度も甦る。
*『私が引き取った時には、体中虐待の痕だらけで、生きているのが不思議な程だった』
早苗の言葉が浮んでは沈み、何度も繰り返し巡る。
*『それでも樹央は、あの娘を羨ましいと思うのか?』
信号が青に変わり、再び走り出す樹央。
しかし、その頭から早苗の言葉が消え去る事は無かった。
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