~壱~

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夜の闇が明け切らない早朝。 昨日から降り続いた雨は日付の変わる頃に止んだものの、まだ顔を出さない太陽の代わりに白い街灯の光が辺りを照らす。 そんな白い光に照らされた桜の街路樹が立ち並ぶ大きな通りに面した、賃貸マンションの玄関口に一人の男──樹央が立っていた。 樹央は寝癖の残っている短めの黒髪を眠そうに掻き、体をほぐす為軽い運動を始める。 長身痩躯の身体は痩せている、というよりは、無駄な贅肉が無く引き締まった印象を受ける。 顔立ちは良くも悪く無く、取り立てて特長と呼べるモノは無いが、見る人によっては好まれるかもしれない。 暁に染まる前の静かな街は眠っている様で、僅かな孤独と解放感を孕んだ闇が横たわっている。 この微妙な時間帯が樹央は好きだ。 初めは偶々、朝早く起きた時に闇夜から暁へと変わる様を眺めているだけだったが、いつしか自ら起き出しジョギングを楽しむのが日課となっていた。 「よしっ!」 そう呟くと頬を軽く二度叩き走り出す。 人気の無いこの街に、自分の昏い闇を無自覚の内に重ね合わせている事に気付かぬまま………
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