~壱~

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樹央の住むマンションから徒歩3分の処に有る駅から、電車に揺られ2駅、更にそこから徒歩10分の場所に樹央が通う私立平嘉高校は在る。 取分け特長と呼べるものは無いが、他の学校と比べ学費が安い事が特徴といえば特徴になるのだろう。 そんな平凡、窮まりない平嘉高校も今は昼休み。 年頃の高校生に取っては、教師を気にしないですむ貴重な時間だ。 各々、自由に席を離れ仲の好い友人と昼食を取る。時には教室から出て行く者等もいる。 樹央も例外では無い。 「ミッキー。一緒に食べよ~」 樹央の事をミッキーと呼び、席に寄って来る少女は仲村紗織。 やや、茶色気味の腰にまで届きそうな長い髪を肩の辺りで二つに別けて結び、赤縁の眼鏡を掛けている。 身長は樹央の胸元までしかなく、随分と小柄で本当に高校生なのか疑いたくなるほどだ。 本人曰く「未だに小学生料金で映画を観れる!!」とのこと。 その真偽はともかく……。 「なぁ、その『ミッキー』ての止めてくれない?」 「ヤダー。ミッキーはミッキーだよ?」 何度となく、樹央が同じ事を口にしてきたが、一向に止める気配が無い紗織は既に、樹央の机に近くの席から椅子を拝借し、片手で隠せそうな、小さな弁当を広げている。 「相変わらず、騒がしくて良いな」 こちらの、樹央の机に菓子パンを大量に置きながら二人のやり取りを楽しそうに見て、笑いを噛み殺している青年は河本賢斗。 樹央よりやや大柄な彼の髪は癖の有る金色、緩やかなウェーブを描くそれは自由な方向に伸びている。 「…賢斗、他人事だと思ってるだろ?」 「他人事だろ?」 樹央がムッとして問えば、ククッと喉を鳴して賢斗が答える。 「まぁ、今更だよなぁ~」 諦めた様にため息を吐き、樹央が机の上に出したのはアルミニウム箔の包み。 「……何だ、ソレは?」 「あ~~?……弁当」 .
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