~壱~

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アルミ箔の包みを広げると、中から特大サイズのおにぎりが二つと漬物が数種類が顔を出す。 「ミッキーのお弁当、ゴーカイ」 「どうした?寝坊でもしたか?」 樹央の自称弁当を見て、二人が口々に感想を漏らす。 正直に言えば、『家に食材が無いから』なのだが、それを口に出せば二人に可哀相なモノを憐れむ様な目で見られる事になるだろう。 賢斗とは中学から、紗織とは高校からの付き合いといえどもそれぐらいは分かる。 なので樹央は、『男はこれで良いんだ』と言い、流す事にした。 それを聞いて紗織は『じゃあ、男弁当だぁ~』と燥ぎ、賢斗は『オレも男なんだがな』と微笑を噛み締めていたが、同情されるよりかはマシだろう。 その後、三人は他愛の無い会話をしながらそれぞれの昼食を取る。 そんな日常の中に居ても、樹央は頭の片隅で今朝のニュースを考えていた。 (不可思議な事が有るわけじゃ無い、……男が刺されて死んだ……ただ…それだけ、…………それだけの筈なのに、何かが気になる。) 金銭目的の窃盗にしろ、私情の恨みにしろ、今の世の中は簡単に殺人へと発展する。 だから、今朝の事件も大して珍しくも無いただの殺人事件、ただそれだけ。 (それだけの筈なのに、何かが気になる) 結局樹央は、もやもやとした気持ちのまま、答など出ない問いに悩ませられて放課後まで過す羽目になった。 .
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