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「────っ…!!」
響は弾かれるように意識を覚醒させた。
目の前には見慣れた天井、無音の室内で自分の激しく脈打つ鼓動が嫌なくらいによく聞こえた。
「…っはあ…、何や…夢かい…」
響は心臓を落ち着かせるために深呼吸をする、ふと額に手をやると、じんわりと汗が滲んでいた。
どうやら額だけではなく、全身冷や汗をかいていたようで、先ほどの夢がそれほど鮮明だったのを物語っていた。
黒のシャツはすっかり汗を吸いこんでしまっていて着心地が悪い。
「…久しぶりに夢見たと思ったらこれかい」
白くなった前髪を手でくしゃりと乱すと、重い溜息を吐いた。
元は黒髪だったこの髪も、当時のショックからか前髪だけが白くなってしまった。
あの時鼻筋につけられた、真一文字の傷痕が鈍く疼く。
久しく見た過去の悪夢に、響はげんなりとした。
枕元の煙草の箱を手に取り、一本火をつけて紫煙を吸い込むと、いくらか気分はマシになったものの、爽快とまではいかず、寝覚めが悪いことに変わりはなかった。
「今日はええことあらへんかもしれへんな…」
そう嘆きながら、サイドデスクに置かれた灰皿に煙草を押し付け、ベッドから立ち上がった。
窓を開ければ、空は陽が昇り始めた頃で、少し冷たい空気の中、朝焼けの空はピンクと青みがかった紫の綺麗なグラデーションを映していた。
その水平線に広がるのは、響が今暮らしている国、【RED】の一般街。
あの惨劇の夜から十数年、響はREDの中のさらに特殊部隊である【CRIMSON部隊】に所属していた。
網目状に造られた正方形の街並みの中央に、巨大な円形の軍事施設が建ち、囲うようにして4つに区分された一般街、地下には貧民が住まうスラムがある。
響が今いるここは、その軍の施設の一つである寮の部屋だった。
「ええ天気やなぁ…」
自分の心境とは裏腹な美しい空に皮肉めいた笑みを浮かべた。
響は椅子に掛けられた【CRIMSON部隊】のワッペンが縫い付けられた緑の軍服コートと黒いハイネックのノースリーブを持って施設内にある共用のシャワールームへと向かった。
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