第0章:紅い夜の夢

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「…っ!あなた…!」 そこにいたのは、返り血か、自分の血かはわからないが、全身をべっとりと紅く染めた父親が、ぼんやりと虚空を見つめて佇んでいた。 母は刀を捨て、父親に駆け寄った。 響も父親の無事な姿に安堵する。 父さんは悪い奴らをやっつけてきたんだ! 父さんはやっぱり強い! そんな高揚感が体の中にあふれるのを感じながら、響も遅れて父親の元に駆け寄ろうと足を踏み出した。 母は父親の胸に飛び込み、血が付くのもお構いなしに抱きしめた。 「ああ!ああ!よかった!無事だったのねあな」 「――――。」 「…え…?」 父親がなにかを呟いた途端、耳慣れない生々しい音が、脊髄に、脳に響く。 母親は視線を胸元に向けると、父親の腕が、自分の心臓を貫いている事に気付いた。 背中から突き出る腕から、母親の赤い赤い命が滴る。 それは母の服を赤黒く染め上げ、地面に溜まっていく。 その残酷な光景は、今まさに駆け寄らんとしていた響の目にも、しっかりと映った。 「ど…して…」 疑問を投げ掛けると共に母親の目から涙があふれる。 喉の奥からせりあがる血液が、彼女の口から滝のように零れ落ちた。 父親の目はうつろにそれを見つめる。 何の感情もなく、無機質に。 しかし母親にはそれが、別の様に見えていたのか、震える手で力なく、父親の頬に触れた。 「…そっか…そうだね、ごめん、ね…、あなた…」 …もう、疲れたね…。 そう呟いた母の目から光が失せ、手がだらりと落ちる。 左手にはめていたシルバーの指輪が血で濡れた指から抜け、二人の足元にできた紅い湖に沈む。 それは、母の絶命を物語っていた。
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