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父親は母の亡骸を持ち上げると、そのまま響の足元へ放り投げた。
亡骸は勢い良く叩きつけられ、その血が響の頬に振りかかる。
恐る恐る指で拭いとったそれは、生温かく、先ほどまで生きていた事の証でもあった。
「…かあ…さん…?」
呼んでも返事はない。
涙を流し、虚ろに目を開いたままの母の胸には、大きな風穴があいていた。
「あああ、あ、あああ、ぁぁぁぁあああああ!!」
夜の森に響の絶叫が響き渡る。
目の前で起こった惨状が、幼い響の心では受け止めきれず、ただ感情のままに叫びながら落ちていた刀を手にした。
「なんで…、なんで母さんを…
母さんを殺したああああ!!!!」
響は身の丈に合わない刀を引きずるようにして父親に向かう。
違う…!!
こいつは父さんじゃない…!!!
父さんはこんな事しない!!!
「お前は!!!父さんじゃない!!!!」
響は激情の向くまま刀を振りかぶるも、父親は黒く硬質化させた腕でそれをはじき、刀は金属音を響かせながら大きく弧を描いて地面に突き刺さる。
その時、父親の鋭く伸びた爪が響の鼻筋を切り裂いた。
「が…っ!!」
はじかれた衝撃で響は地面に勢いよく転がった。
「ぅぐ…っう…ゲホッ…!」
叩きつけられた痛みで上手く酸素が取り込めず、体を動かす事も出来ない。
真一文字に切り裂かれたそこからは血が溢れ、鼻腔にまで入り込んでくる。
自分の血にむせながらも、響はゆっくりと近づいてくる父親を睨んだ。
胸ぐらをつかまれ、持ち上げられる息苦しさに涙をにじませ、恨みを込めた目で睨みながらも、響は己の父親に向かって言い放った。
「殺して…やる…!
絶対に…!
お前を…殺してやる!!!」
その言葉が届いたかどうかは、もう意識が薄れ始めた響にはわからない。
父親は目を細め、もう片方の腕を、響の心臓めがけて振りかぶった――…
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