蒼碧の森-Raggi di prinavera-

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殺戮を好むと畏怖されたその腕の中では、全ての罪を許すように心地よく眠る命。 そして月下に咲く華を想わせる佳人が、その傍らで微笑みを浮かべていた。 佳人はその微笑みで、再び逢うことを許されたものたちを見守っている。 その幸せが永遠に続くよう、そう願う…そんな微笑みが美しい。 「…廻り合わせというのか?…実に不思議だ、…オレはそう想う」 再会を喜び、抱き合う姉弟を見つめてアガレスはそう呟いた。 サイカがその不思議を引き寄せる体質なのか、それともこれは本当に神という存在の悪戯が成せる技なのだろうか。 アガレスの呟きの中には、様々な疑問も含まれていた。 「縁、えにし…というものがこれなのだろうの。人の縁というものはの、そうそう簡単に無くなってしもうたりはせぬ。そう、ライセンが話しておったわ」 「ほぅ…、えにしか…オレとお前もそうなる…か?」 聞きなれない言葉ではあったが、アガレスはこの言葉が気に入った。 問いかけるアガレスにサイカはゆっくりと頷き、そしてもうじき臨月を迎える身体をアガレスに寄せる。 その身体を優しく抱いて、アガレスは想っていた。 この幸せがずっと続けば、自分はもう誰も殺めずに済むのだ。自分だけではない、誰もがこうして幸せを当たり前に実感できるのだ。 「セツナ、お前がまさか…姫様のお側にいたなんて、私は夢にも思わなかった。良いお方に拾われたな」 アガレスが物思いに耽っていると、クオンがそう言ってサイカを見た。 これに対してアガレスは憤慨することもなく、今まで自分のしてきたことがどれだけのものだったか…それを考えれば当たり前なのだと受け止めていた。 わざわざ名乗りを上げる必要は無い、サイカがいなければセツナの手当てをするものはいなかっただろうし、アガレス自身もまた、傷ついたセツナを助けていたかどうかも疑問だったからだ。 「いいえ、姉上。混血児である私を助け、お側に置いてくださっているのはアガレス様です。噂なんて当てになりません、アガレス様はとても優しいお方なのですよ」 セツナがその目に尊敬を込めアガレスを見てそう答えると、クオンが一瞬呆けるような顔をしてから、アガレスへ必死に頭を下げていた。 「申し訳ございません…っ!」 そんなクオンの様子に驚きながらも、アガレスは『気にしていない』とほんの少し笑った。
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