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直ぐ傍にその熱い体温がある、それがどのように自分を扱おうと、それを受けるのが自分のやるべきことなのだと、サイカは直ぐ傍にある熱い体温へ緊張していた。
手を伸ばす必要もないくらいの至近距離、そうそんな距離にサイカとアガレスはいた。
互いに身に纏っているものは薄い布のみ、それはシーツというものでそれを失ってしまえば、一糸纏わぬ姿を晒すことになる。
そう、これからサイカは初夜を迎えるのだ。
互いに素肌を晒しているというのに、アガレスはまるでそこが定位置だと言わんばかりに動く様子も見せない。
据え膳食わぬは男の恥、という言葉をこの男は知らないのだろうか?
それとも飽きるほど女など扱っていて、然したる興味も持てなくなっているのだろうか?
どちらにせよ、男を知らぬサイカにとっては屈辱に近い状態だった。
衣服を奪われた上にここへ寝かされ、そして何もされずに放置されてしまうのだから、最初に感じていた緊張よりも、怒りの方が上回りつつあった。
「…どうして何もしないのか、そう想っているだろうな…お前は」
そんなサイカにそう声を掛けて、アガレスはゆっくりと上体を起こす。
腰まで伸ばされた銀髪がさらりと逞しい背を流れていき、窓から緩やかに差し込む月光がその銀髪を輝かせていた。
思わず、そう思わず…サイカはその銀髪に手を伸ばし、触れていた。
そして自然と口にしていた、ゆっくりと銀髪に触れながら口にしていた。
「柔らかいのだな、…アガレスの髪は」
「どこまでも酔狂な女だな…」
その言葉がどこか呆れたようすで発せられた気がして、思わずサイカは上体を起こし…素肌を晒しそうになり、慌ててシーツで体を隠していた。
顔を上げればアガレスはどこか不器用な表情をしていて、まるでそれを隠したいかのように視線を彷徨わせている。
そんなアガレスの行動がとても優しく感じられて、サイカは吹き出してしまっていた、あの煉獄卿と呼ばれる狂気と殺戮を好む男を前にして、耐え切れないと笑っていた。
「女じゃない、…私はサイカだ。そう申したのは…そなただろうに?」
そっと二人の影が重なり、そしてゆっくりと影が傾いていく。
直ぐ傍にあった熱は待ちわびていたというように熱く交わり、全てを溶かすようにその交わりは濃厚な時を熱として、二人をその揺り篭で揺らしていた。
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