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獣牙族の元に嫁いで半年が過ぎた、サイカは自分の中にある変化に気付き、そして戸惑い始めていた。
それが何か、サイカは初めてのことで、わからなかった。
夫であるアガレスに伝えようにも、余りにも抽象的な伝え方になりそうで、うまく伝えられる自信がない。
「どうしたら良いのだろうの、こういうことはアガレスには難しいことかのぅ?」
ぽつり…とサイカは呟いていた、この部屋には自分以外はいない。
アガレスは出掛けている、そんな気持ちが悩みを抱えていたサイカの唇を動かしたのだった。
「どういうことが難しい?」
「うむ、近頃…腹がふっくらとしてきての、食が変わったことで太ってしもうたのだろうか?それに胸も少々…これはおなごとして嬉しいのだが、実に気色が悪い」
絶妙のタイミングで問いかけられ、少しぼんやりとしていたサイカは、その質問が誰の口から出たのかも確認せず、そう答えていた。
「………月のものは来ておるか?」
少し間が空いて、次の質問がサイカに投げかけられる。
その質問にサイカは少し考え、まるで思い出したかのように手を打つ。
「おぉ、そういえば来ておらぬ。……まさか身体に溜まっておるのか!?」
そして顔面蒼白になると、サイカは自分の胸やら腹やらを落ち着きなく触り、それから遅れてあることに気づく。
自分は誰と会話している?
実にシンプルだが、当然の疑問だった。
部屋には自分しかいないはず、アガレスは夜まで帰らないと言っていた。
窓越しに見上げた空には太陽、この位置ならもう少しすれば昼になるだろう。
そんなサイカを背中から抱きしめるものがいる、驚きながらも見上げると…そこには自身の夫であるアガレスがいた。
「様子がおかしいと気になって早く帰ってみれば、…そうか……このオレに子が…オレとお前に子が授けられたか…そうか…」
ようやく自分の中にある変化が生命であると知らされ、サイカは心の奥から溢れ出す喜びに涙を浮かべ、そして誇らしげにアガレスへ笑みを見せていた。
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