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なんと猛々しい背中だろう。四十を越えた肉体にはとても見えない。これが羅刹流を極めし者の姿……
「来たか」
まるで私が来ることを予期していたような言い草だ。しかし実際にこうして私はここにいる。
「もう、戻れないのですか?」
話し合いの場はもうない。だからほんの少しの可能性に賭けてみた。
そんなもの、あるはずがないのに。
「我ら羅刹は闘いで思いを伝える。二度言わせるな」
覚悟も何もできていない。勿論師を殺したくもない。でも……
「わかりました。私も羅刹に身を置く人間です。全力でいきます」
師の心を汚すことだけは、どんなことがあってもしたくない。
「それでこそ我が弟子だ」
大きな呼吸をし、剛の構えをとる。あれは攻撃だけに特化した羅刹の構え。
対して私は瞬の構えをとった。肉体的な力の差を埋めるには、速さに特化したこれしかない。
「行くぞ」
突進するように師は私の間合いへと入ってくる。そして握り締められた強力な拳が、躊躇なく私の心臓へと向かった。
それを背後に跳びずさることでかわす。
行き場をなくした拳は地へと叩きつけられ、地響きのような揺れが私の身体を襲った。
「遅い」
振動により身体がぐらついたところに師の剛拳が再び唸る。
「ハッ!!」
防御でも回避でもなく、私はそれを同じように拳で返した。
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