694人が本棚に入れています
本棚に追加
/339ページ
感触はあった。ただ、それに手応えがあったかと言えば違う。
「そこか!!」
「チッ……」
相手の攻撃が来る前に素早く間合いから抜ける。煙も段々とおさまり、視界がいつもの具合に戻る。
やはり禅はあの場から離れていなかった。
「隠力……身体を硬質化する力か。厄介なモノを身につけている」
禅の行動制限を利用してみたんだが、あの隠力では逆に禅に有利に働く。
おそらく俺の力ごときでは梃子でも動かないだろう。
「我にお主を倒す意思はない。だが、ここだけは何人たりとも通らせぬ」
「……これだけは使いたくなかったんだけど」
何をしても埒があかない。俺の直接攻撃で倒れてくれないのなら、相手から勝手にそうしてもらうしかない……
「あんたは義理がたい奴だ。吉宗にしても蓮にしてもそう。あいつらは人情を重んじている」
「む?いきなり何だ?」
意味のわからない俺の言動に、禅は警戒心をより強くする。
まぁ今からすることには支障はない。
「それは時として弱点となる」
「!?……ヌゥ、これ……は……」
禅の強靭な脚は嘘のように崩れ落ち、受け身もとれないまま前のめりに伏した。
「毒……か……」
「速効性の高い、神経を麻痺させるやつだ。あんたのような体力のある人間なら、一日あれば元に戻れる」
「いつ……こんなものを……」
「あんたの身体を治しているとき、保険として細工しておいた。俺の隠力の作動で毒が回るようにと」
「……なんと非情な男……よ」
この隠力はこんな風にも使えてしまう。だから忌み嫌われ、流奈姉さんは……
軽く鼻息をついて頭からその事を消した。今はそんなことを考えている場合ではない。
俺は開け放たれた道に目を向け、最後の階段に足をのばした。
最初のコメントを投稿しよう!