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「っしゅ……」
「……顔に似合わない可愛いくしゃみするんだな……」
「顔は関係ないぞ……」
鼻水を啜る伊集院はそれ以上星歌の言動を弄る余力も残されていなかった。
いつものように手を合わせたが朝食は思うように進まない。
ご飯を飲み込み度に喉に鋭い痛みが突き抜けた。
固形の物も、水物も、喉を素直に通過してくれない。
「……伊集院?」
「悪い……。今日は朝から実験があるんだ。その準備をしなくてはならないから俺は先に行くぞ……」
それが本当のことなのは星歌も知っている。それは星歌のクラスが行うからだ。
伊集院は直ぐに鞄を手にして家を後にした。
「……あきらかに風邪、ですね……。髪乾かさないからああなるんです」
「……馬鹿野郎……。どうしていつも自分一人でどうにかしようとするんだ……?」
「さぁ? でも、今回は姉さんの為では?」
「はぁー? 何で?」
「だって、姉さんは受験生ですから。移したら教師の面目ありませんから」
「……」
「はい、薬。後で伊集院さんに渡して下さいね? ちゃんと渡して下さいね?」
「二度言うなっ!」
「念には念を、と言います。恥ずかしがらずにちゃんと渡して下さい。これは重要なことですから」
「わ、分かってる……」
伊集院の心はこの姉妹にしっかり読まれていた。
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