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二人が単純な理由で結婚して早4ヶ月以上―――特に変わった事は無い。
冬休みに職員室で堂々と結婚する、しないを喚いていたが誰一人として真面目教師の台詞を本気にしてなどいなかった。
唯一、この関係を明確に理解し得るのは校長と彼の同期の先生だけである。
「伊集院っ、あたしの話を聞いてるのかっ!?」
「ん……全く聞いてないぞ、用件は何だったんだ?」
「……聞けぇっ! あたしの血管がちぎれる前にちゃんと聞けぇっ! 苛々し過ぎて死ぬわっ!」
「五月蝿いぞ。五月の蝿よりも騒がしいな。でも……、俺との会話のやり取りが原因で死なれるのは―――後味が悪いぞ。死ぬ前には笑わせてやるから言ってくれ」
「殺すなぁっ! 絶対に死なんっ! これじゃぁ、胸糞悪くて死に切れんわぁっ!!」
生徒の間でも仲の悪いことで二人は有名であり、恋人を吹っ飛ばして夫婦などとは微塵も思っていないのが現実だ。
廊下での愉快な言い合いを“夫婦喧嘩”と名付けられるのは呑気な雰囲気で茶を啜る今年50になる校長、荻窪 葛(おぎくぼ かずら)と饅頭を頬張る同僚の菊里 友(きくざと とも)だけだ。
「実に平和ですね、葛さん」
「うん。茶が美味いな。平和で何より」
葛と友は古い古い付き合いであり、偶然に再会を果たした仲だ。
騒々しい伊集院と星歌を横に熱々のこぶ茶をズズッ、と啜り、昼放課のティータイムを満喫していた。
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