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「……つかれた。」
「あなたは何もなさってないでしょう。」
椅子に腰掛けうなだれているのは、若い女性だった。
その横には、背の高い眼鏡をかけた青年がいた。
「だって、頭使うのってめんどうだろう?」
「あなたが言えるセリフだとは思えませんがね。」
「冷たいんじゃねぇの?ご主人様に対して。」
「貴女と私は、マスターとメシア。貴女に仕える執事ではありませんから。」
「………堅苦しい。」
そう言うと、眼鏡をはずし、は~っとため息をついた。
彼女の名前は、セル・ヴィスト。
歳は19才で、まだまだわがままな少女である。
そんな彼女だが、滞在している小さな街では、英雄なのである。
いや、この街というより、すべての土地で、彼女は英雄扱いをうけている。
その理由は、彼女の職業と関係している。
彼女は、マスターという一風変わった聞き慣れない仕事をしている。
マスターという仕事は、わかりやすくいうと、操り師である。
人形遣いや糸師のようなもので、何かを動かして対象をやり遂げるというものだ。
そしてマスターには、一人以上、メシアと呼ばれる人間がついている。
メシアがいないマスターは、画面のないパソコンぐらい役にたたない人間でしかない、と言われている。
主な仕事は、用心棒や警備、護送、取り締まりなど様々で、中でも、一番多いのは『悪狩り』と呼ばれる取り締まりである。
懸賞金のかかる仕事である上に、国からの地位までもらえるのだ。
ちなみに、彼女、セルの地位は、マスターの中でも上の『総帥』というランクである。
言い換えれば、国王や女王に仕えるぐらいの地位なのだ。
しかしながら、当の本人は、まったくわかっておらず、『総帥』である雰囲気さえ漂わないのだった。
まぁ、19才のわがまま娘なのだから仕方ないのだが………そんなのはごめんだという人が一人いた。
「あのですね、もう少し稽古やら鍛錬やらをして、私のスピードについてきてください。………いや、こらえるだけでもかまいませんから。」
「だって、無理でしょ。マスターだし。」
「だからこそです。………せめても、それらしく振る舞ってください。毎回毎回、一般人扱いされて、悔しくないんですか?」
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