【犬】

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─── 今朝は、6月には珍しく晴天だった。 さほど気温が高いわけでもないが、日差しは心地よい。初夏の風が眠気を誘う。 朝のホームルームはまだ始まっていない。担任教師不在の教室は、いつもどおり騒がしかった。 課題を進める生徒や大学の偏差値について話し合う生徒もいれば、昨晩のアニメについて熱弁をふるう生徒など、話題は多種多様だ。 「……ふあ」 そのどれにも該当しないのが、窓際の席に座るひとりの男子生徒だ。仏頂面であくびをしながら、机に突っ伏す。 男子生徒がまどろんだところで、彼の頭上からキンキンと頭に響く声が降ってきた。 「奏(カナデ)ったら、どうせ深夜番組でも見てたんでしょ?それかゲームのやりすぎね!」 男子生徒が腕の隙間から声の主を確認する。 そこには、気の強そうな女子が仁王立ちで構えていた。本来の人懐っこさが台無しになるほどの鋭い視線でこちらを見下ろす。 「学校は寝室ではありません、勉強するところです!脳に酸素が足りてないのよ。はい、深呼吸してー!」 「……アドバイス助かる、凪紗(ナギサ)」 奏は面倒臭そうにうなった。突っ伏しているため、声はくぐもっている。 「ちょっと!人が真剣に助言してあげてるのに、テキトーに返さないで!って寝ないの!」 周囲の女子たちから笑い声がもれる。彼女たちにとって、このやり取りは面白いらしい。 奏に、その笑いの基準はよくわからなかった。 (女子って、時々なんでもないことで笑うよな……) そんなことを考えているうちに、教室の扉が開き、担任教師がやってきた。 「あ、先生来たわ。じゃあね。」 凪紗は好き放題言うだけ言うと、自分の座席へと戻っていった。他のクラスメートも着席したところで、担任教師が号令の合図をする。 「はい日直、挨拶。」 「おはよーございまーす。」 生徒たちの声に覇気がないのはいつものことだ。担任はクラスファイルの連絡事項を指でなぞる。 「あー、今日で清掃強化週間が終わるなぁ。最後まで念入りに掃除するようにー」 生徒たちの大半は自分には関係ないと言いたげだ。奏もそのひとりのはずだった。 担任は、窓際の席で頬杖をつく男子を指さした。 「戸狩(トガリ)、お前のことだぞ。」 奏は目を丸め、顔をしかめた。 「……俺ですか?」 「そうだぞ。お前、環境委員だろう。今日の放課後は、同じ環境委員の小原(オハラ)と資料室Aに行くように。」 奏より前の席に座る小原凪紗が振り返る。面倒くさいと口パクで訴えてきた。 凪紗は4月の委員会決めの際、ジャンケンに負けて環境委員となった。一方の奏は、環境委員が売れ残っていた理由を、今知った。 担任はふたりを交互に見ながら、腕を組む。 「俺は午後、出張で学校にいないからな。お前ら、仕事忘れてそのまま下校するなよ?」 担任の言葉に凪紗は小さく返事をしたようだったが、奏は力無くうつぶせただけだった。
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