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「なあイオリ、これ知ってるか?」
とある中学校のとある教室。窓側最後尾に座っている俺に、友達のユウキは一枚のビラを差し出した。
「……見えない」
「もうちょっとボケないか」
ゼロ距離にあったチラシが机の上にパシンと置かれる。ファンタジーな草原に城、その中央に不思議な剣を持った男がいる。
「ああ、UPSTARTか。ニュースでは若者を腐らせる病原菌、とか言ってたな」
「そりゃあ現実を見ないバカだけの話だ。ま、上りつめりゃ働かずに暮らせるのは本当だけどな」
「で、これが?」
「やらないか?」
すげー真摯な顔で呟かれた。突っ込むのは、まあ止めておいて。
「興味はあるけど」
その人気のわりにはずいぶんと悪い噂を聞く。主にニート生産機って方向で。なもんだから、今まで興味はあっても両親が許可してくれなかった。
「どうせ親が、っていうんだろ? 大丈夫さ、俺が説得して見せるから」
ぐっと立てられる親指。
「いや近いし」
「もうちょっとボケないか」
ボケない。
「でも説得して、か……もしそれができるならやりたいな。 やっぱり話題のゲームだし、かなり興味はあるんだ」
「任せろ。放課後を楽しみにしているがいい」
ユウキの口車は天下一品なもんだから、自然と期待してしまう。
「……あ」
ユウキは、ふと何かを思い出すように漏らした。
「言い忘れてた。
ゲームの中身を知らないお前には間違いなくわからないと思うんだが……このゲーム、攻略するには現実でも努力が必要だったりするんだ」
「ん? まあゲームだし。予備知識を詰め込むのは常道だろ?」
「そういうんじゃなくてな……コビを売っといたほうがいいんだ」
「……は?」
コビ……媚び?
「まあイオリには無理だな。そこも俺に任せとけ」
言って、消えるユウキ。そのまま残像だけでクラスメート数人のスカートをめくり、教室を出て行った。
「白白ピンクベージュ白……ぬう……いい仕事しやがるぜ」
無論、教室の中は大混乱となっている。女子は怒り男子は微笑む、てな感じ。狂気の宴は、いやしかし眼福だった。
「イ、イオリくん……」
騒ぎが収まりかけてきた頃。ててて、と細やかに駆けてきた女子は、小さくなりながら声をかけてきた。
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