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初めにキィン、なんて金属音。
次いでブゥン、なんて電子音。
んで視界はブラックアウト。なぜか感覚は残っていて、自分がぐるぐると洗濯機に回されてるようで気持ち悪い。
たぶん転送中、ってことなんだろうが……もう少しなんとかならないんだろうか。
なんていうか、こう……回されてる速度が上がってる気がするし。
『……ぅえ』
不意に、ぶわっと吐き気におそわれた。いやいや待て、これはおかしい。
つい最近マイナーになってきたこういうリアルネット系のゲームは、普通、完璧にダイブしてからじゃなきゃ感覚はついて来ない。
全ての状態を完璧に頭へインストールして、ようやく人は仮想を具現化する。
と、専門家の父さんに聞いた。
でも、俺の五感はまだはっきりしていない。
視界はゼロ。触感もなければ聴覚だって働いてない。
吐き気なんか感じるわけがないんだけど。
『ぅ……ええええっ』
なんか現在進行形で凄まじいものが襲ってきてる。
危ないなあ。現実で目を覚ましたとき、俺の周りが海になってたらどうしようか。
『えろろろろろろ』
うわっちょっとシャレにならない声だな俺。これ明らかに出してるじゃんか。
……ぬう。抑えようとしてみるけど全然言うこと聞かない。
これ、現実だと思いたくないなあ。
なんて現実と仮想の狭間で現実逃避をした瞬間。
「っ!」
世界が真っ白に染まった。眩しいのかと思ったが、目を守った手はカラフル。ただ白いだけの空間がそこにある。
見てみれば体は完璧に出来上がっていた。
それから間を置き、足元の一点から一気に色が広がっていく。
「すごい……」
そうして目の前に出来上がったのは、白い柱が乱立する、ほの暗い、石製の空間。
柱に付けられたオレンジのランプしか明かりがないためか、天井も、四方も、その奥が見えない。
ただ延々と小さな光が浮いている。とてつもなく広いようだ。
これはなかなか神秘的。
先ほど感じていた吐き気なんて忘れて、俺はただぼーっと景色を見つめていた。
吐き気は収まったらしい。
知識はあるけど、入ったのはこれが初めてだった。写真と直視では、こうも印象が違うものなのか。
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