咲いて候

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私は桜。 桜の木。 もうすぐ、私は咲く。 淡赤の花びらを煌かせながら 私は咲く。 初めて咲く。 楽しみだ。 私も他の桜の木と同じように 花を咲かせることが出来る。 四つの季節の前、 私は咲かなかった。 隣の桜の木は咲いた。 その隣の木も咲いた。 この石畳の坂道に並ぶ 私たち桜の木々の中 私だけが咲かなかった。 その時 泣いていた私に 隣の桜の木の お姉さんは言った。 「貴女はまだ若いから、  咲かないのよ」 そう、まだ私は若い。 これから咲く。 この季節に咲き誇る。 この季節が 巡り巡ってくる度に ずっとずっと咲く。 暖かい日差しが近づけば 体の奥底から聞こえてくる。 咲けよ、咲けよと 何かが叫ぶ。 その叫びを一つ一つ 紡ぎながら私は咲く。 初めて花を咲かす。
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