プロローグ

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 それは直接聞いたのか、間接的に聞いたのか。  今となっては、いつだったか、どこで聞いたのかすら覚えていないことだが。  その耳にした言葉だけは、はっきりと思い出せる。  ──平凡な日常が一番幸せだ。  俺はそれを聞いた時、たしかにそうだな、と思った。  そんなわけあるかなんて思える人は、きっと恵まれた環境で暮らしているのだと思う。  もしくはよほどの物好きか、平凡な日常に飽き飽きして刺激を求めているからか。  とはいえ。  たしかに、いつもと変わらない日常から外れた出来事に遭遇する、というのが幸なのか不幸なのか、どう感じるのかは当事者によって違うものなのだとはわかるけれど。  俺からすれば、やはりつまらなくても平凡な日常が続いてくれた方が嬉しいわけで。  ああ、先に断っておくが。非日常であることがすべて悪いことだらけかと言えば、まあ、当然そんなことはない。  実際、俺が現在進行形で置かれているこの状況は客観的にも主観的にも、どこをどう見て考えようとも幸せ以外の何物でもないことは間違いない。  俺と立場を入れ代わりたい輩──主に男だろうことは疑うまでもないが──は腐るほどいらっしゃるはずだ。  というか、このことを第三者、特に一部の過激派な方々に知られた場合、俺はおそらく殺さ──。  …………いや、なんだ、その。想像するだけで恐ろしい目に遭うこと確実である。  いったいどういうことになるのか。  それを詳しく述べると俺の精神衛生上よろしくない。  ので。  いつもの風景が途端にホラーへ早変わり。  と、これだけで事態の深刻さを理解してもらいたい。
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