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「で、あれの手掛かりはつかめたのか?」
ロイはスプーン片手にクロスに向かって問い掛ける。
かえってくる答えは毎回同じなのだがもしかしたらという小さな期待も含めて定期的にこの質問をしている。
「全然だな。手掛かりどころか噂さえ聞かないぜ」
「そうか。噂までないとなると『精霊石』なんて神話の中でしか存在しないのかも――」
「あるっ!」
クロスはカウンターを両手で思い切り叩く。
他の客の視線を集め、皿が一瞬中を舞い、コップの水はこぼれ、スプーンとナイフは地面に落ちる。
鼻歌混じりに皿洗いをしていたジャンまででてきた。
これにはロイもしまったと自分の軽はずみな発言を呪う。
クロスの前で『精霊石』のことで批判的な発言はタブーなのだった。
クロスは胸元から碧に光る小さな石のついた首飾りを取り出す。
「この石が偽物っていうのかよ! これは俺の親父が人生かけて見付けた本物の『精霊石』のかけらなんだ!」
精霊石とは神様が人間に召喚術を教えたときにあたえた石とされている。
それはいくつかに別れて世界中に散らばったとか。
今ではだれも信じてないしその話しを知るものは数少ない。
「ちょっ、他の客に迷惑でしょ! 少し落ち着いて」
「これが落ち着いてられるかぁ!」
クロスは立ち上がり、今にも暴れ出しそうな勢いだ。
ロイは必死になだめ、ジャンもどうすればいいのかわからずあたふたしている。
クロスがまた何かいおうと口を開けようとした瞬間。
「少し黙りなさい」
決して大きくはない声量にもかかわらず店内に響くソプラノボイス。
それと同時にクロスのこめかみあたりにリボルバーを突き付ける音。それを構える一人の女性。
顔はフードで隠れて見えないが声と身長からしてクロス達と同じくらいかそのちょっと上くらいだろうか。
酒場はしばらくの静寂に包まれた。
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