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固まる空間。死の淵にいるクロス。無表情の女。
女はシンっと静まる店内を一回見回すと何かに納得したのか、銃をクロスの脳天からはなす。
「マスター」
「は、はいぃっ」
ジャンは両手を天に向けて全力で伸ばす。その声は完全に裏返っていた。
人の頭にリボルバーを突き付けるような女に声をかけられたら誰もがとる行動かもしれない。
そして女は銃を持つ手とは反対の手で何かをジャンに投げ付けた。
ジャンが慌ててそれをキャッチして手を広げるとそこには白銀に光るコイン、銀貨がそこにはあった。
「ランチ、美味しかったです。ごちそうさまでした。あと、お釣りはけっこう。では失礼」
「あ、ま、またの来店おまちしておりま……す」
女は軽くお辞儀をすると歩いて店の外へと出ていった。
ジャンはその場にペタンと腰を抜かす。
騒然とした店内はいまだに静まりかえっている。
それはクロスとロイも例外ではなく。女がでていった出口をただ見つめるのみである。
クロスに限ってはなぜかプルプルと小刻みに震えているようだった。
そこでロイがやっと口を開く。
「なんなんだ、あの女の人。クロスが頭に銃を突き付けるまで気配もなにも感じなかった」
「あの腕……」
「ああ、戦闘の腕は確かだろうね」
「違う……お前は見なかったのか!? あの女の腕に着いたブレスレットを!」
「ブレスレット?」
クロスは興奮した表情でロイの肩を両手でわしづかみにする。
ロイはまだ気がつかない様子で頭に疑問苻を浮かべてつかまれるのみである。
「あの女のブレスレットに碧い石が使われていただろうが!」
「碧の……石…? ――まさか!?」
「そのまさかかもしれない。追うぞ!」
「わかった!」
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