第26話 泥と血と涙㊥

176/232
前へ
/959ページ
次へ
「嫌ですが・・・やらなきゃならない・・・」 章介は理解していた。今の俺達にとって、死神に勝つ唯一の方法は姫を殺すことだと。 「なら、回り込め」 章介は泥を含んで重くなった裾を引きずり、死神を中心に弧を画くように、刀を構えて慎重に移動を開始する。 その外周を、いつでも裾を踏めるよう、章介の歩調に合わせて茜が移動してゆく。 (来る・・・) 大鎌を垂直に構えた死神にも、また、その後ろにたたずむ黒衣の姫にも動きがあったわけではない。 ただ、もうすぐ章介は、俺と向き合う死神の横を通り過ぎる。 死神が俺達に前後を挟まれたくないのなら、今動くしかない。 そして 緑の死神か黒衣の姫か、それとも真紀か、誰が最初に動いたのか分からないが、一気に空気に流れが生まれ、掻き乱される。 俺から最も遠い所で長い黒髪が舞い、靴の爪先が血溜まりに半円を画く、その先をたどれば緑の裾がはためき、裾に触れるほど振りかぶられた三日月形の刃が空気を裂く。俺の首筋に真紀の吐いた息がとどき、同時にキュッと靴底の擦れる音、そして、俺の耳元では己の繰り出した刃が音をたてる。
/959ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14097人が本棚に入れています
本棚に追加