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「嫌ですが・・・やらなきゃならない・・・」
章介は理解していた。今の俺達にとって、死神に勝つ唯一の方法は姫を殺すことだと。
「なら、回り込め」
章介は泥を含んで重くなった裾を引きずり、死神を中心に弧を画くように、刀を構えて慎重に移動を開始する。
その外周を、いつでも裾を踏めるよう、章介の歩調に合わせて茜が移動してゆく。
(来る・・・)
大鎌を垂直に構えた死神にも、また、その後ろにたたずむ黒衣の姫にも動きがあったわけではない。
ただ、もうすぐ章介は、俺と向き合う死神の横を通り過ぎる。
死神が俺達に前後を挟まれたくないのなら、今動くしかない。
そして
緑の死神か黒衣の姫か、それとも真紀か、誰が最初に動いたのか分からないが、一気に空気に流れが生まれ、掻き乱される。
俺から最も遠い所で長い黒髪が舞い、靴の爪先が血溜まりに半円を画く、その先をたどれば緑の裾がはためき、裾に触れるほど振りかぶられた三日月形の刃が空気を裂く。俺の首筋に真紀の吐いた息がとどき、同時にキュッと靴底の擦れる音、そして、俺の耳元では己の繰り出した刃が音をたてる。
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