裾踏物語Ⅱ

第２６話 泥と血と涙㊥

章介が姫に向けて放ったのは突き

優しい章介が女性に向ける剣としてはためらいがない。

その刀の軌道を変えたのは、死神が後ろ手に操る大鎌だった。

大鎌は絡め取るようにして冥府刀に掛かり、刀の軌道を曲げる。

それた刀に沿い、姫は裾から身を乗り出す。裾に片足を残し、片足を大きく踏み出し、章介の喉元に掌を突き入れる。

章介は仰け反り、喉を押さえた。

大鎌は章介をそのまま放置し、死神の肩を大きく越え、こちらへ牙を剥く。

俺は刀を振り上げ、負傷した足で死神に対し踏み込む。

泥は足の傷に対して何らクッションとはならず、激痛が走る。

大鎌は冥府刀と死神の間に割り入り、幅広い刃によって持ち主と冥府刀を隔てる。

俺は激痛に逆らわず、膝を折る。意図したことではなく、自然な身体の反応だったため、死神は俺の動きを読めない。俺はその低くなった姿勢を活かし、大鎌の下に冥府刀をくぐらせた。

このまま突けば、死神の脚ぐらいは斬ることが出来る。