第26話 泥と血と涙㊥

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馬の荒々しさ、カズマの猛々しさに比べ、馬上の鬼は静かだ。眼を鋭く細め、槍の穂先はぶれることなくカズマの急所に狙いを定めている。 旋風のごとく、空中に無数の円を画く薙刀。 冷たい光りをたたえ、真っ直ぐに獲物の急所を狙う槍。 馬は破壊的な突風となり、刃の旋風と交差する。 三度の金属音が鳴り、カズマの頭上、肩、脇の間近で火花が散る。 一瞬の交差のうちに、鬼は三度槍を繰り出したのだ。鬼も鬼だが、三度防いだカズマも凄い。 駆け抜けた馬の大腿から鮮血が吹く。  私には見えなかったが、三度ではなく、カズマの方が一つ手数が多かったようだ。 ただし、傷は浅く、馬の速度は衰えない。  鬼は廊下の端まで馬を走らせ、馬首を返した。  「やるのう」 カズマは薙刀の柄を小脇に挟み、回転を止める。 「将をブッ殺すにはまず馬をブッ殺せ・・・識らないのか?下がガラ空きだぜ」 「狙いは良いが、次はうまくいくかの?」 「忙しいんだ、さっさと来いよ」
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