第26話 泥と血と涙㊥

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私はカズマと素早く前後を入れ換え、先程と同じようにコートの裾をベタ踏みする。 馬が駆け出すと同時に、カズマは再び薙刀を回転させ始める。  鬼は馬の背に乗っているわけではなく、馬の胴に巻き付いた蛇の髪によって馬上に吊るされている。 よって、極めてバランスがよく、身体は微動だにしない。 だから、その表情がよく見える。  冷笑を浮かべている。 艶やかな着物に包まれた身体は下半身がなく、馬を失えば移動手段がなくなる。つまり、上は己の頭から下は馬の脚先まで守らねばならず、守るべき範囲は広い。 優位とは言えない状況だ。 にも関わらず、その顔には不気味な冷笑を浮かべている。 冷笑の真上では蛇の髪がくねり、馬の胴に幾重にも巻きついた尾が蠢きだす。 そして、カズマの目前に迫った瞬間、胴に巻き付いた蛇が渦巻き状に胴廻りを回り、鬼をゴンドラのように馬上からサイドへ移動させた。 馬の横腹を狙ったカズマの薙刀を鬼は真正面から槍で弾く。
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