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「長引かせねえ」
カズマの身体が少し横に傾き、裾の陰からわずかな泥の音がする。
動くと判断した私は裾から足を退け、それと同時にカズマは一歩だけ移動し、廊下の真中に陣取る。
馬の進路を塞ぎ、真正面から戦う気だ。
「その心意気やよしじゃ!」
鬼は胴廻りを回転しながら満足そうに笑う。
私は再び真紀さんの真似をし、姿勢を低くして裾を踏む。その私に「慣れねえことはするな」とカズマが言った。
「いつもの踏み方にしろ。後ろに薙刀は回さねえ」
「はい」
命令口調は気に入らないが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
馬は速度をおとし、体躯を横に向ける。カズマの前には蛇の巻き付く胴腹、回転を続ける鬼は馬の背を乗り越え、下る勢いをもって上から槍を突き下ろす。
(なっ!!?)
舌の根も乾かぬうちに、カズマの薙刀を持つ右手が裏拳となって私の顔面に迫る。
反射的に仰け反り、裾から後退した私の前で、カズマは右手に右足を追わせ、身体を真横にした。
突き下ろされた槍がカズマの鼻先をかすめ、カズマの胸をかすめる
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