第26話 泥と血と涙㊥

203/232
前へ
/959ページ
次へ
馬の蹴りを薙刀で受ければ、柄が折れてしまう。よって、カズマが薙刀を使うことは有り得ない。 仰向けで寝そべる私は、猿鬼の槍を蹴り上げたばかりの足を横に倒し、仰向けから横へ、横からうつ伏せへと身体を回転させて素早く床を転がる。 足はもう裾に乗っていない。 自由となったカズマは私を追うように左へ跳び、間一髪で馬の蹴りをかわす。 私は肘や膝の痛さを我慢して床を転がり、立つために仰向けで止まった。その瞬間、真上に槍の穂先を見た。 跳んだ猿が真下に槍を繰り出し、私の顔を貫こうとしている。 今動いても、槍は容易に軌道を変えるだろう。 まだ動いてはダメだ。 私は動きを止めたまま、槍の先を見据える。そして、槍が鼻先に迫った瞬間、私は半回転してうつ伏せになった。 スタン! 耳元に槍の突き立つ音。 それを合図に両手で床を突き放し、私は跳ね起きる。 勢い余って数歩後退した足裏には裾の感触、背にはカズマの背が当たる。
/959ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14097人が本棚に入れています
本棚に追加