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魔導機関車の煙突がもうもうと白煙を吐き出している。あれは特に何かを排出するわけではなく、単に出発が近いことを知らせるためにあるサインであるらしい。
「急いでよ、ルーカス!」
「待ってくれよ、荷物が絡まって……っ!?」
催促にもかかわらず、ルーカスは何やらごちゃごちゃした荷物になかなか手間取って進むことができない。いったい、何をあんなに持ってきたのだろうか。
「ほら、早く!」
仕方なく手伝うことにする。いくつかの鞄をルーカスからひったくり、車内へと急ぐ。
内部は長旅に備えた寝台車で、最大四人まで十分に生活できる大きさの部屋がいくつも備え付けられた形で構成されている。
ようやく魔導機関車の扉をくぐって車内に入ることのできたルインは、適当な空き部屋を見つけ、備え付けられている荷物入れ用の箱の中へと強引にルーカスの荷物を押し入れた。
「ばぁや、行ってくるよーっ!」
だが、そんな風にして人が一生懸命手伝っているというのに、いつの間に入ってきていたルーカスはのんきに窓から顔を出して、外にいるマリエッタに手を振っていた。荷物は無造作に床に放り出したままだ。
「………………」
普段はおとなしいルインでも、思うときはある。
───“どつきたい”と。
「痛ッ?!な、何すんだルイン!?」
とりあえず蹴りを入れておいた。予想外であったろう襲撃に、ルーカスは振り返り抗議の声をあげた。
「……何でもない」
「な、何でもないってどういうことだよ!?」
「何でもない」
「…………」
だが、ルーカスは不服そうではあったが、ルインが取り合わないので諦めてしまったようだ。
そして、魔導機関車が大きな音と振動を合図に動き出した。
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