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「バカ、何であんな危ないところでボーっと突っ立ってんの!あんたが死んじゃったら、それこそ全部終わりなんだからね!!」
甲高い声でヒステリー気味に話しかけているのは、おそらく少年と同年代くらいの、だがやや年上であろう少女。姉と弟、そのようにも見える。
よく見ると着ている服は既にボロボロで、体中はススや血などで汚れている。
「さぁ走るよ!とにかく、ここから逃げなきゃ!」
そう言うと、少女は少年の手をひったくるような勢いで掴みにかかった。引っ張ってでも逃げるつもりなのだろう。
だが少年は無言のままその手を払いのけると、悲しそうに俯いた。
「え……あ、あんた、何やってんのよ!こんな所にいたら、死───」
近くの木が燃え尽きて倒れてきた。危うくその木の下敷きになりかけた少女は慌てて飛び退き、なんとか難を逃れた。
だが、その木越しに見えたのは、陽炎で怪しく揺らめきながら近づいてくる“それ”の集団だった。
「あんた……みんなの死を無駄にしたいのッ!?」
「…………!」
少女の叫ぶような大声に、少年は俯けていた頭を上げた。見ると、炎熱で乾ききった少女の頬になんと涙が伝っている。
驚いた顔で見ていると、少女は涙を拭って話しかけた。今度は驚くほど低く落ち着いた声で。
「逃げるよ、あたしと一緒に」
少年は少し困ったような顔をしたが、すぐに決意を固め、小さく頷いた。
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